今日は経営法務のR3第16問について解説します。
以下の会話は、X株式会社の代表取締役甲氏と、中小企業診断士であるあなたと
の間で行われたものである。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。
甲 氏:「弊社が特許を取得した包丁の発明について、Y社から、その包丁を製造させて欲しいという申し出がありました。弊社としては、弊社の工場の生産能力にも限界があるので、ライセンス契約を締結しようと考えていますが、ライセンス契約には様々な種類があると聞きました。どのようなライセンス契約が適切でしょうか。」
あなた:「特許権のライセンスとしては、大きく分けて、専用実施権と通常実施権というものがあります。専用実施権は、 A により効力を生じることになります。その場合、設定行為で定めた専用の範囲内については、御社は、 B 。また、Y社は、その範囲内で、侵害行為者に対して、差止めや損害賠償請求ができるようになります。」
甲 氏:「なるほど。では、通常実施権はどういうものでしょうか。」
あなた:「通常実施権は、御社とY社との契約により効力を生じ、Y社は契約で定めた範囲内で、その発明を実施することができるようになります。」
甲 氏:「実は、Y社からは、Y社以外の第三者との間ではライセンス契約を締結しないで欲しい、その旨を弊社との間のライセンス契約で定めて欲しいと言われており、弊社としても、検討中なのですが、通常実施権につき、そもそもそのような契約は可能なのでしょうか。」
あなた:「可能です。そして、 C 。」
甲 氏:「そのような契約をした場合、Y社は、侵害行為者に対して、独断で、差止めや損害賠償請求ができるようになるのでしょうか。」
あなた:「独占以外の特約がない場合、特許権者である御社の有する権利の代位行使は除き、固有の権利としては、差止請求は D とされており、損害賠償請求は認められるとされています。私の知り合いの弁護士を紹介しますので、相談されてはいかがでしょうか。」
甲 氏:「ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。」
(設問 1 )
会話の中の空欄AとBに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
ア A:御社とY社との契約
B:Y社の許諾なくして実施することができます
イ A:御社とY社との契約
B:Y社の許諾なくして実施することはできません
ウ A:御社とY社との契約及びそれに基づく専用実施権設定登録
B:Y社の許諾なくして実施することができます
エ A:御社とY社との契約及びそれに基づく専用実施権設定登録
B:Y社の許諾なくして実施することはできません
(設問 2 )
会話の中の空欄CとDに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
ア C:契約以外の手続は必要ありません D:認められない
イ C:契約以外の手続は必要ありません D:認められる
ウ C:契約に加えて、通常実施権の登録も必要です D:認められない
エ C:契約に加えて、通常実施権の登録も必要です D:認められる
解説
特許の専用実施権と通常実施権に関する問題です。
問題文が長いので一見難しそうに見えますが、問い自体は基本的な内容ですのでしっかりと答えられるようにしましょう。
設問1
専用実施権を設定するにはその権利を使用する者に対して設定契約に加えて、設定登録が必要になります。
また、専用実施権を設定した場合、その範囲に関する特許については特許権者であっても専用実施権者の許可が無しには使用できません。
一方、通常実施権は権利者と実施者が実施許諾契約を結べば、設定登録をしなくても実施可能です。これを当然対抗制度といいます。
よって、Aは「御社とY社との契約及びそれに基づく専用実施権の設定登録」Bは「Y社の許諾なくして実施することはできません」となり、正解は選択肢エとなります。
設問2
こちらは通常実施権についてです。
専用実施権との違いは、通常実施権はあくまで、通常実施権の契約に基づき特許の実施が行うことが出来るだけで、第三者への差止請求を行う権利はありません。
契約については設問1で解説の通りです。
よって、Cは「契約以外の手続きは認められません」Dは(差し止め請求は)「認められない」、となり正解は選択肢アとなります。
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