今日は、令和3年度(10月) 第1問について解説します。

令和2年度と3年度は、新型コロナウイルスの感染拡大防止措置として、受験者分散の目的で10月と12月の2回試験が実施されました。

 

★出題テーマ【権利関係-借地借家法/借家権】★

令和3年度(10月)宅地建物取引士試験 第1

次の1から4までの記述のうち、民法の規定、判例及び下記判決文によれば、正しいものはどれか。

判決文

「賃貸人は、特別の約定のない限り、賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべきであり、したがって、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係に立つものではないと解するのが相当である。このことは、賃貸借の終了原因が解除(解約)による場合であっても異なるところはないと解すべきである。」

①  賃借人の家屋明渡債務が賃貸人の敷金返還債務に対し先履行の関係に立つと解すべき場合、賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を取得する余地はない。

 

②  賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、1個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるものといえる。

 

③  賃貸借における敷金は、賃貸借の終了時点までに生じた債権を担保するものであって、賃貸人は、賃貸借終了後賃借人の家屋の明渡しまでに生じた債権を敷金から控除することはできない。

 

④  賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務の間に同時履行の関係を肯定することは、家屋の明渡しまでに賃貸人が取得する一切の債権を担保することを目的とする敷金の性質にも適合する。

 

 

 

解説

敷金返還と建物明渡しの関係についての問題です。

 

判決文では、家屋明渡債務と敷金返還債務が同時履行の関係に立たないことが明示されています。

それではさっそく選択肢をみていきましょう。

 


選択肢 ①

賃借人の家屋明渡債務が賃貸人の敷金返還債務に対し先履行の関係に立つと解すべき場合、賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を取得する余地はない.

 

〇適切です。

留置権とは、簡単に言うと建物の明渡しを拒む権利のことです。建物を明け渡さない(留置する)ことによって、債権の弁済を強制することができるものです。

ただし、債権が弁済期にないときは、留置権はありません。

つまり、選択肢の内容を言い換えると、敷金返還よりも先に借主が建物を返還しなくてはいけないことであれば、借主は、貸主に対して、「敷金を返してくれない限り出ていかなくてもいい」という権利はない、ということです。借主は敷金が返還される前でも、家屋を明け渡さなければなりませんね。

選択肢の説明通りですので、この選択肢は適切です。

 


選択肢 ②

賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、1個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるものといえる

 

×不適切です。

敷金とは、賃貸契約上の債務を担保する目的で借主から貸主に預けられるお金のことで、賃貸借契約とは別の敷金契約に基づくものです。

 

つまり、賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、それぞれ別個の契約によるものであり、対価的債務の関係にあるとは言えません。よってこの選択肢は不適切です。

 


選択肢 ③

賃貸借における敷金は、賃貸借の終了時点までに生じた債権を担保するものであって、賃貸人は、賃貸借終了後賃借人の家屋の明渡しまでに生じた債権を敷金から控除することはできない

 

×不適切です。

敷金は、賃貸借が終了し、かつ建物を明け渡した後に返還されます。

借主が賃貸借終了後も建物を明け渡さないというのは、留置権を行使して建物の明渡しを拒んでいるケースなどが考えられますが、このような場合でも、明渡しまでの期間、賃料の支払いを逃れるわけではありません。

賃貸借が終了して、建物を明け渡さないときは、その期間の賃料相当損害金を負担する必要があり、敷金からの控除の対象となり得ます。

つまり、賃貸借における敷金は、賃貸借が終了し、かつ建物を明け渡すまでの債権を担保するものであって、賃貸人は、賃貸借終了後賃借人の家屋の明渡しまでに生じた債権を敷金から控除することができます。よってこの選択肢は不適切です。

 


選択肢 ④

賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務の間に同時履行の関係を肯定することは、家屋の明渡しまでに賃貸人が取得する一切の債権を担保することを目的とする敷金の性質にも適合する

 

×不適切です。

同時履行の関係というのは、簡単に言うと、相手が債務の履行をするまでは自分もしなくてOKという関係です。

この選択肢での「同時履行の関係を肯定する」というのは「賃貸借の終了に伴って、借主が建物を明け渡すことと、貸主が敷金を返還することを、お互い一緒にしなきゃいけないよね!」という意味になります。

また、敷金には、賃貸契約上の債務を担保する目的があります。賃貸契約上の債務に含まれるものには、未払いの賃料もありますが、借主が建物を損傷していた場合などの損害賠償債務もあります。例えば建物の内部に損傷があった場合、明渡しと同時に損害賠償請求をすることは難しいですね。

ということは、賃貸借の終了に伴って、借主が建物を明け渡すことと、貸主が敷金を返還することを、お互い一緒にしなきゃいけないよね!という考え方は、賃貸契約上の債務を担保するという敷金の目的の性質とは合わないです。

つまり、賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務の間に同時履行の関係を肯定することは、家屋の明渡しまでに賃貸人が取得する一切の債権を担保することを目的とする敷金の性質には適合しません。よってこの選択肢は不適切です。

 

そもそも判決文で「家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係に立つものではないと解する」と言っていますから、この選択肢の「同時履行の関係を肯定する」という内容と相違しているので、少し混乱するかもしれませんが、文章の意味を一つずつ検討していくと正解が導けますので安心してくださいね。

 


 

以上から、正解は選択肢①となります。

 

 

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