今日は、令和4年度 第25問について解説します。
Aは賃貸住宅(以下「甲住宅」という。)を所有し、各部屋を賃貸に供しているところ、令和2年、X銀行から融資を受けてこの建物を全面的にリフォームした。甲住宅には融資の担保のためX銀行の抵当権が設定された。Bは抵当権の設定登記前から甲住宅の一室を賃借して居住しており、CとDは抵当権の設定登記後に賃借して居住している。この事案に関する次の記述のうち、誤っているものはいくつあるか。なお、各記述は独立しており、相互に関係しないものとする。
ア 賃借権の対抗要件は、賃借権の登記のみである。
イ Bが死亡し相続が開始した場合、相続の開始が抵当権の設定登記より後であるときは、相続人はX銀行の同意を得なければ、賃借権をX銀行に対抗することができない。
ウ AがX銀行に弁済することができず、同銀行が甲住宅の競売を申し立てた場合、Cの賃借権は差押えに優先するため、賃借権をX銀行に対抗することができる。
エ AがX銀行に弁済することができず、同銀行が甲住宅の競売を申し立てEがこれを買い受けた場合、Eは、競売開始決定前に甲住宅の部屋を賃借し使用収益を開始したDに対し敷金返還義務を負わない。
1 1つ
2 2つ
3 3つ
4 4つ
解説
賃借権などの対抗要件に関する問題です。
それではさっそく選択肢をみていきましょう。
選択肢 ア
賃借権の対抗要件は、賃借権の登記のみである。
×不適切です。
自分の権利を法的に主張できる状態のことを、対抗要件を備えているといいます。
賃借権の対抗要件は、賃借権を登記していることや、建物の引渡しが行われていることによって成立します。
つまり、賃借権の対抗要件は、賃借権の登記や建物の引渡しです。よってこの選択肢は不適切です。
選択肢 イ
Bが死亡し相続が開始した場合、相続の開始が抵当権の設定登記より後であるときは、相続人はX銀行の同意を得なければ、賃借権をX銀行に対抗することができない。
×不適切です。
借主Bは、抵当権の設定登記前から甲住宅の一室を賃借して居住しています。ということは、BはX銀行の抵当権に対して、対抗要件を備えているということになりますね。
Bが亡くなった場合、相続によって相続人が借主の地位を承継します。
たとえ相続が抵当権の設定登記よりも後であっても、相続人はBの権利義務を承継しているわけですから、BがX銀行の抵当権に対して、対抗要件を備えていることも、そのまま相続人が承継していることになります。なお、X銀行の同意は必要ありません。
つまり、Bが死亡し相続が開始した場合、相続の開始が抵当権の設定登記より後であったとしても、相続人はX銀行の同意の有無にかかわらず、賃借権をX銀行に対抗することができます。よってこの選択肢は不適切です。
選択肢 ウ
AがX銀行に弁済することができず、同銀行が甲住宅の競売を申し立てた場合、Cの賃借権は差押えに優先するため、賃借権をX銀行に対抗することができる。
×不適切です。
借主Cは、抵当権の設定登記後に賃借して居住しています。
建物の引渡しという対抗要件は、差押えの時期は関係なく、抵当権設定の前になされていることによって成立します。
ということは、CはX銀行の抵当権に対して、対抗要件を備えていないということになりますね。
貸主がX銀行に弁済ができなくなり、甲住宅が差押さえられた時には、対抗要件を備えていないCは、X銀行に賃借権を対抗できないということになります。
つまり、AがX銀行に弁済することができず、同銀行が甲住宅の競売を申し立てた場合、Cの賃借権は差押えに劣後するため、賃借権をX銀行に対抗することができません。よってこの選択肢は不適切です。
選択肢 エ
AがX銀行に弁済することができず、同銀行が甲住宅の競売を申し立てEがこれを買い受けた場合、Eは、競売開始決定前に甲住宅の部屋を賃借し使用収益を開始したDに対し敷金返還義務を負わない。
〇適切です。
借主Dは、抵当権の設定登記後に賃借して居住しています。Cと同じです。
なのでDも、Cと同様に銀行の抵当権に対して、対抗要件を備えていないということになりますね。
競売によって、甲住宅の所有者がEに変わった場合、DはEに賃借権を対抗することができません。また、EはAの貸主の地位を承継するわけではないので、Dに対する敷金返還義務を負うことはありません。
選択肢の説明通りですので、この選択肢は適切です。
ちなみに、Dは競売手続きの開始前に甲住宅に居住しています。
この場合、Eが買受けたときから6か月間猶予期間があり、直ちに出ていなかければいけないというわけではありません。
以上から、誤っている選択肢はアとイとウの3つですので、正解は選択肢③となります。
ぜひ関連解説もあわせてご確認いただければと思います。
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