今日は、令和5年度 第11問について解説します。
賃貸住宅における原状回復に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
① 賃貸人が敷金100万円から原状回復費用として70万円を控除して賃借人に敷金を返還した場合において、賃借人の故意・過失による損耗・毀損がないときは、賃借人は、敷金全額分の返還を受けるため、少額訴訟を提起することができる。
② 原状回復にかかるトラブルを未然に防止するためには、原状回復条件を賃貸借契約書においてあらかじめ合意しておくことが重要であるため、原状回復ガイドラインでは、賃貸借契約書に添付する原状回復の条件に関する様式が示されている。
③ 原状回復費用の見積りや精算の際の参考とするため、原状回復ガイドラインでは、原状回復の精算明細等に関する様式が示されている。
④ 民法では、賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷(通常の使用収益によって生じた損耗や賃借物の経年変化を除く)がある場合において、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものである場合を除き、賃貸借の終了時に、その損傷を原状に復する義務を負うとされている。
解説
原状回復に関する問題です。
それではさっそく選択肢をみていきましょう。
選択肢①
賃貸人が敷金100万円から原状回復費用として70万円を控除して賃借人に敷金を返還した場合において、賃借人の故意・過失による損耗・毀損がないときは、賃借人は、敷金全額分の返還を受けるため、少額訴訟を提起することができる。
×不適切です。
原則として、借主の故意・過失、善管注意義務違反によらない損耗や毀損についての原状回復費用は、貸主負担とされています。ですので、この選択肢の場合、借主には敷金全額分を返還してほしいと請求する権利はあるものと考えられます。
ただし、少額訴訟について、まとめシートでは以下の通り解説しています。
少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払を求める場合に限り利用することができます。この選択肢の場合は、敷金全額100万円のうち、すでに30万円が返還されているので、70万円分の支払いを請求するものとしていますので、少額訴訟は利用できません。
つまり、賃貸人が敷金100万円から原状回復費用として70万円を控除して賃借人に敷金を返還した場合において、賃借人の故意・過失による損耗・毀損がないときは、賃借人は、敷金全額分の返還を受けるためには、少額訴訟を提起することができません。よってこの選択肢は不適切です。
選択肢②
原状回復にかかるトラブルを未然に防止するためには、原状回復条件を賃貸借契約書においてあらかじめ合意しておくことが重要であるため、原状回復ガイドラインでは、賃貸借契約書に添付する原状回復の条件に関する様式が示されている。
〇適切です。
賃貸住宅の明渡しの際の原状回復の内容等を、具体的に賃貸借契約契約前に開示し、借主の十分な確認を得たうえで、貸主・借主双方の合意により、原状回復条件について契約時効として取り決めることが重要とされています。その際の参考として、原状回復ガイドラインでは「契約書に添付する原状回復の条件に関する様式」を示しています。
よってこの選択肢は適切です。
なお、「契約書に添付する原状回復の条件に関する様式」は、貸主・借主の修繕分担、借主の負担単位、原状回復工事の単価などについて記載できる様式となっています。
選択肢③
原状回復費用の見積りや精算の際の参考とするため、原状回復ガイドラインでは、原状回復の精算明細等に関する様式が示されている。
〇適切です。
原状回復費用の見積もりや精算の際の参考として、原状回復ガイドラインでは「原状回復の精算明細等に関する様式」が示されています。
よってこの選択肢は適切です。
なお、「原状回復の精算明細等に関する様式」は、原状回復の対象箇所を「床」「天井」「設備」などの部位別にまとめて、それぞれの原状回復工事費用、経過年数、貸主・借主それぞれの負担割合と金額を記載できる様式となっています。
選択肢④
民法では、賃借人は、賃借物を受け取った後に生じた損傷(通常の使用収益によって生じた損耗や賃借物の経年変化を除く)がある場合において、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものである場合を除き、賃貸借の終了時に、その損傷を原状に復する義務を負うとされている。
〇適切です。
借主の義務について、まとめシートでは以下の通り解説しています。
借主には、賃料支払義務、用法遵守義務、保管義務、原状回復義務があります。
原状回復義務については、民法第621条において、借主は、賃借物を受け取った後で生じた損傷を、賃貸借契約が終了した際に原状に復する義務があるとされていますので、この選択肢は適切です。
以上から、正解は選択肢①となります。
「原状回復ガイドライン」についての知識+@が必要な問題ですね。
特に選択肢②、③については、国土交通省のサイトもあわせて確認するとより理解が深まりますので、ぜひ解説と一緒にご確認ください。
原状回復ガイドラインに関する問題は例年複数問出題されています。
また、適切(または不適切)なものの個数を問うものはR4年、R5年試験において連続で出題さ
れていますので、ぜひ関連解説もあわせてご確認いただければと思います。
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