今日は、宅地建物取引士試験 令和2年度(10月) 第5問について解説します。

令和2年度と3年度は、新型コロナウイルスの感染拡大防止措置として、受験者分散の目的で10月と12月の2回試験が実施されました。

 

★出題テーマ【権利関係-委任】★

令和2年度(10月)宅地建物取引士試験 第5

AとBの間で令和2年7月1日に締結された委任契約において、委任者Aが受任者Bに対して報酬を支払うこととされていた場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。

 

① Aの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、Bは報酬全額をAに対して請求することができるが、自己の債務を免れたことによって得た利益をAに償還しなければならない。

 

②  Bは、契約の本旨に従い、自己の財産に対するのと同一の注意をもって委任事務を処理しなければならない。

 

③  Bの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、BはAに対して報酬を請求することができない。

 

④ Bが死亡した場合、Bの相続人は、急迫の事情の有無にかかわらず、受任者の地位を承継して委任事務を処理しなければならない。

 

 

 

解説

委任に関する問題です。

 

それではさっそく選択肢をみていきましょう。

 


選択肢 ①

Aの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、Bは報酬全額をAに対して請求することができるが、自己の債務を免れたことによって得た利益をAに償還しなければならない。

 

〇適切です。

まずは民法の規定から確認してみましょう。

債権者の責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、債権者は、反対給付の履行を拒むことができないとされています。この場合において、債務者は、自己の債務を逃れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければなりません。(民法536条2項)

 

選択肢に当てはめて言い換えてみると、以下のようになります。

委任者であるA(債権者)の都合や責任で契約が途中で終了してしまった場合には、Aは支払う約束をしていた報酬を払わなければなりません。この場合、受任者B(債務者)は途中でやめたことによって得た分の利益は、Aに返還(償還)しなければなりません。

選択肢の説明通りとなりますので、この選択肢は適切です。

 


選択肢 ②

Bは、契約の本旨に従い、自己の財産に対するのと同一の注意をもって委任事務を処理しなければならない。

 

×不適切です。

受任者Bは、依頼された業務について、契約の目的や約束に沿って、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理しなければいけないとされています。自己の財産に対するのと同等では足りません。

これは善管注意義務といい、受任者に求められる義務のひとつです。

つまり、Bは、契約の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理しなければならなりません。自己の財産を管理するのと同等では足りません。よってこの選択肢は不適切です。

 


選択肢 ③

Bの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、BはAに対して報酬を請求することができない

 

×不適切です。

選択肢①とは逆で、受任者Bの都合や責任で契約が途中で終了してしまった場合の取り扱いについてです。

こちらも民法の規定から確認してみましょう。

受任者は、(1)委任者の責に帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなった (2)委任が履行の途中で終了した 場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができます。(民法648条3項)

受任者Bの都合や責任で契約が途中で終了した場合というのも、「委任者の責に帰することができない事由」に含まれますので、Bは自分のせいで途中で委任契約が終了してしまっても、すでに履行した分については請求することができます。

つまり、Bの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、BはAに対して既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができます。よってこの選択肢は不適切です。

 


選択肢 ④

Bが死亡した場合、Bの相続人は、急迫の事情の有無にかかわらず、受任者の地位を承継して委任事務を処理しなければならない。

 

×不適切です。

こちらも民法の規定から確認していきましょう。

委任は、(1)委任者又は受任者の死亡 (2)委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと  (3)受任者が後見開始の審判を受けたこと によって終了します。(民法653条)

ただし、委任契約が終了した場合において、急迫の事情があるときには、受任者またはその相続人もしくは法定代理人は、委任者またはその相続人もしくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければなりません。(民法654条)

 

選択肢に当てはめてみます。

受任者Bの死亡によって、委任契約は終了します。ただしその場合でも、Bの相続人は、急迫の事情がある場合にはAが委任事務を引き継ぐまでは必要な処分をしなければいけないということになります。急を要するような場合は、Bの相続人は一時的にBの委任事務をやる必要があるということですね。

つまり、Bが死亡した場合、Bの相続人は、急迫の事情がある場合には、受任者の地位を承継して委任事務を処理しなければなりません。よってこの選択肢は不適切です。

 


 

以上から、正解は選択肢①となります。

 

 

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