今日は、令和5年度 第19問について解説します。
賃借人が賃料債務を免れる場合に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
① 賃貸借契約で定められた賃料の支払時期から10年が経過すれば、特段の手続きを要することなく、賃借人は賃料債務を免れる。
② 賃貸借契約で賃料の支払方法が持参払いと定められている場合で、賃貸人が賃料の増額を主張して賃料の受領を拒否しているときは、賃借人が従前の賃料額を賃貸人宅に持参し、賃貸人が受け取れる状況にすれば、賃貸人に受領を拒否された場合でも、賃借人は賃料債務を免れる。
③ 賃貸借契約で賃料の支払方法が口座振込と定められている場合で、賃借人が賃貸人宅に賃料を持参したにもかかわらず、賃貸人が受領を拒否したときは、賃料を供託することが可能であり、供託により、賃借人は賃料債務を免れる。
④ 賃貸借契約期間中であっても、賃貸人が、敷金の一部を賃借人の賃料債務に充当したときは、賃借人の承諾の有無にかかわらず、賃借人は、その分の賃料債務を免れる。
解説
賃料に関する問題です。
それではさっそく選択肢を確認しましょう。
選択肢 ①
賃貸借契約で定められた賃料の支払時期から10年が経過すれば、特段の手続きを要することなく、賃借人は賃料債務を免れる。
×不適切です。
一定期間の経過により権利を取得したり、権利が消滅したりする制度を時効といいます。
賃料債権は、時効によって消滅することがあります。
消滅時効について、まとめシートでは以下の通り解説しています。
権利を行使できることを知った日から5年、または権利を行使できる日から10年で賃料債権は消滅します。
時効が完成した場合、時効により利益をうけることを意思表示(時効の援用)することによって時効完成の効力が生じます。
つまり、賃貸借契約で定められた賃料の支払時期から10年が経過すれば、時効を援用することによって、賃借人は賃料債務を免れます。(時効を援用するためには、賃貸借契約の相手方に時効を伝えるなどの手続きが必要です。)よってこの選択肢は不適切です。
選択肢 ②
賃貸借契約で賃料の支払方法が持参払いと定められている場合で、賃貸人が賃料の増額を主張して賃料の受領を拒否しているときは、賃借人が従前の賃料額を賃貸人宅に持参し、賃貸人が受け取れる状況にすれば、賃貸人に受領を拒否された場合でも、賃借人は賃料債務を免れる。
×不適切です。
借主が賃料を支払って、貸主が受領したときに、借主の賃料支払い義務が消滅します。つまり、受領していない場合は、賃料債務は消滅しないということです。
なお、貸主が賃料の増額を請求している場合で借主との協議が整わない場合には、裁判が確定するまでの間は、借主は相当と認める賃料を払えば良いとされています。
ですので、借主が相当と認めている従前の賃料を、貸主が受け取れる状況にすることによって、債務不履行責任(遅延利息など)を逃れることができます。この場合でも、貸主が受領していなければ、賃料債務自体から逃れるわけではありません。賃料債務を消滅させる方法として、供託をすることができます。
つまり、賃貸借契約で賃料の支払方法が持参払いと定められている場合で、賃貸人が賃料の増額を主張して賃料の受領を拒否しているときは、賃借人が従前の賃料額を賃貸人宅に持参し、賃貸人が受け取れる状況にすれば、賃貸人に受領を拒否された場合でも、賃借人は債務不履行責任免れます。なお、賃料債務を消滅させるには、賃料を供託する必要があります。よってこの選択肢は不適切です。
選択肢 ③
賃貸借契約で賃料の支払方法が口座振込と定められている場合で、賃借人が賃貸人宅に賃料を持参したにもかかわらず、賃貸人が受領を拒否したときは、賃料を供託することが可能であり、供託により、賃借人は賃料債務を免れる。
×不適切です。
供託について、まとめシートでは以下の通り解説しています。
貸主が賃料の受領を拒んだときは、賃料を供託することができます。
ただし選択肢の場合は、賃貸借契約において、口座振込で賃料を支払うことが約定されているにもかかわらず、借主は約定とは違う方法=持参で支払おうとしました。
借主は約定通りの方法で支払う必要があり、違う方法で支払うことを拒否されたからといって、受領拒絶になるものではありませんので、供託の原因とはなりません。
つまり、賃貸借契約で賃料の支払方法が口座振込と定められている場合で、賃借人が賃貸人宅に賃料を持参したにもかかわらず、賃貸人が受領を拒否したときは、賃料を供託する原因(受領拒絶)にはあたらないため、供託することはできず、賃借人は賃料債務を免れることはできません。よってこの選択肢は不適切です。
選択肢 ④
賃貸借契約期間中であっても、賃貸人が、敷金の一部を賃借人の賃料債務に充当したときは、賃借人の承諾の有無にかかわらず、賃借人は、その分の賃料債務を免れる。
〇適切です。
契約期間中の敷金による賃料の充当について、まとめシートでは以下の通り解説しています。
貸主は、借主が賃料債務を履行しない場合には、契約期間中であっても任意に敷金を賃料債務に充てることができます。
なお、敷金が賃料債務に充てられる場合、意思表示は必要ありませんので、借主の承諾は必要とされていません。
選択肢の説明通りですので、この選択肢は適切です。
以上から、正解は選択肢④となります。
賃料や敷金などの金銭の管理について、ぜひ関連解説もあわせてご確認いただければと思います。
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