今回は平成30第18問の職務発明と職務著作の問題について解説します。
経営法務では今回の問題のように会話形式の問題がよく出ますが、長文に惑わされず、聞かれているのは何に関する知識なのかを冷静に考えるようにしましょう。
H30 経営法務 第18問
以下の会話は、中小企業診断士であるあなたと、X株式会社の代表取締役甲氏との間で行われたものである。この会話を読んで、下記の設問に答えよ。
甲 氏:「当社が労務管理のソフトウエアを開発している会社であることはご存知かと思いますが、新たに採用管理のソフトウエアの開発を検討しております。他社にまねをされないよう、どうにかして保護することはできないでしょうか。」
あなた:「ソフトウエアであれば、著作権により保護される可能性があります。また、特許権による保護もあり得ます。」
甲 氏:「著作権とか特許権というのは聞いたことがあります。開発をするのは、当社のソフトウエア開発の部署の従業員なのですが、著作権や特許権は当社に帰属しますか。」
あなた:「そうだとすると、いわゆる職務著作や職務発明に該当する可能性があります。その場合、著作権と特許権では、取り扱いが異なります。 [ A ]を最初から貴社に帰属させるためには、あらかじめ契約、勤務規則その他の定めにおいて、その旨を定めなければなりません。[ B ]。」
甲 氏:「なるほど。ソフトウエアの開発にあたっては、Y株式会社との共同開発も視野に入れているのですが、その場合の権利の帰属はどうなりますか。」
あなた:「Y株式会社とその従業員との契約等によりますが、著作権も特許権も、貴社とY株式会社の共有になる可能性があります。」
甲 氏:「その場合、当社は、当該ソフトウエアを、販売したり、作って販売することを第三者に許諾したり、または、自らの権利の持分を譲渡したりするときに、Y株式会社の承諾が必要になるのでしょうか。」
あなた:「Y株式会社との間で別段の定めをせず、著作権と特許権の双方で保護されることを前提とします。まず、貴社が作って販売することは承諾が[ C ] 。次に、作って販売することを第三者に許諾することは承諾が[ D ]。従業員との契約、勤務規則などの資料を持って、弁護士に相談に行きましょう。」
(設問1)
会話の中の空欄AとBに入る語句の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
ア A:著作権
B:しかも、定めていない場合には、当該ソフトウエアを販売することもできません
イ A:著作権
B:ただし、定めていない場合でも、当該ソフトウエアを販売することはできます
ウ A:特許権
B:しかも、定めていない場合には、当該ソフトウエアを販売することもできません
エ A:特許権
B:ただし、定めていない場合でも、当該ソフトウエアを販売することはできます
(設問2)
会話の中の空欄CとDに入る語句の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。
ア C:ない場合、できません D:ない場合、できません
イ C:ない場合、できません D:なくても可能です
ウ C:なくても可能です D:ない場合、できません
エ C:なくても可能です D:なくても可能です
長文に惑わされがちですが、必要な知識は何かということを落ち着いて考えていきましょう。
設問1の空欄Aは権利を会社に帰属させるために事前に従業員との取り決めが必要なのは職務発明、職務著作のどちらか?ということが聞かれています。
職務発明は就業規則などであらかじめ定めがあれば、特許を受ける権利は発生したときから企業に帰属しますが、特に定めがない場合は個人に帰属し、それに対し職務著作はあらかじめ使用者に権利があります。
そのため、空欄Aには特許権が入ります。
また、就業規則などであらかじめ定めがある場合もない場合も、通常実施権はありますので、空欄Bには「ただし、定めていない場合でも、当該ソフトウエアを販売することはできます」という文言が入ります。
以上から設問1は選択肢エが正解となります。
次に設問2を見てみましょう。
設問2は特許権及び著作権を共有している場合に空欄Cでは、自社が使用する権利、空欄Dでは使用を他社に許諾する権利について問われています。
特許権の場合は、共有者はそれぞれ特許を自由に実施することができますが、第3者への使用の許諾は共有者の承諾が必要です。
特許は、モノではなく情報なので、共有者が勝手に誰にでも使用を許可してしまったら、共有者は迷惑を被るかもしれないので、このように決まっています。
以上を踏まえると、選択肢ウのような気がしてきますが(実際どこかの予備校の速報でもウになってしまっていたそうです)、この問題、特許権と著作権の両方について聞かれているところにトラップが仕込まれています。
著作権の場合、「共有著作権は共有者全員の合意によらなければ行使することができない」とされています。
ですので、特許権と著作権の両方について考えた場合は、空欄Cは「ない場合、できません」となり、若干日本語が変な気がしますが、選択肢アが正解となります。
設問2は特許権については知っていても著作権については知らない人も多かったと思いますので、なかなか対応が難しい問題だったと思います。
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