今日は、経済学・経済政策のR4 第7問について解説します。
下図には、右下がりの総需要曲線 AD と垂直な総供給曲線 AS が描かれている。YF は完全雇用 GDP である。
この図に基づいて、下記の設問に答えよ。
(設問 1 )
古典派モデルにおける総需要曲線 AD と総供給曲線 AS に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 利子率の低下は貨幣需要を増加させる。したがって、物価水準の上昇は、実質利子率の低下による実質投資支出の増加をもたらし、総需要を増加させる。
イ 利子率は貨幣需要に影響を与えない。したがって、物価水準の上昇は、実質利子率の低下による実質投資支出の増加を通じて、総需要を増加させる。
ウ 利子率は貨幣需要に影響を与えない。したがって、物価水準の上昇は、実質利子率を低下させるが、実質投資支出に影響を与えず、総需要も変化しない。
エ 労働市場においては実質賃金率の調整によって完全雇用が実現する。したがって、物価水準が上昇すると、実質賃金率の下落による労働需要の増加を通じて総供給が増加する。
オ 労働市場は完全雇用水準で均衡している。したがって、物価水準が変化しても、名目賃金率が同率で変化するので、雇用量が変化することはなく、生産量も完全雇用水準で維持されたままであり、総供給も変化しない。
(設問 2 )
財政・金融政策の効果に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 政府支出の増加は、総需要を変化させないが、総供給を増加させる。
イ 政府支出の増加は、物価水準の下落を通じて、実質 GDP を増加させる。
ウ 名目貨幣供給の増加は、物価と名目賃金率を同率で引き上げ、実質 GDP には影響を与えない。
エ 名目貨幣供給の増加は、実質貨幣供給を一定に保つように物価を引き上げるとともに、実質 GDP を増加させる。
解説
AD-AS分析に関する問題です。
(設問1)は、AD曲線、AS曲線それぞれについて問う問題です。
AD曲線、AS曲線(古典派)については、まとめシートで以下の通り解説しています。
【AS曲線】
それでは選択肢をみていきましょう。
選択肢ア:誤りです。この選択肢はAD曲線に関する記述です。物価水準の上昇は、実質的貨幣供給の減少→利子率の上昇→投資の減少→国民所得の減少という形で、総需要を減少させます。このことは、総需要曲線ADが右下がりであることにも表れています。
なお、「利子率の低下は貨幣需要を増加させる」という点は正しい記述です。
よって、この選択肢は×です。
選択肢イ:誤りです。この選択肢はAD曲線に関する記述です。選択肢アと同じ根拠により、「総需要を増加させる」というのは誤りです。なお、「利子率の低下は貨幣需要に影響を与えない」という点も誤りです。
よって、この選択肢は×です。
選択肢ウ:誤りです。この選択肢はAD曲線に関する記述です。選択肢アと同じ根拠により、「総需要も変化しない」というのは誤りです。なお、「利子率の低下は貨幣需要に影響を与えない」という点も誤りです。
よって、この選択肢は×です。
選択肢エ:誤りです。この選択肢はAS曲線に関する記述です。古典派モデルでは、物価水準の変化に合わせて名目賃金が自由に変化するため、AS曲線は物価の影響を受けずに常に一定であるとされます。
よって、この選択肢は×です。
選択肢オ:その通りです。古典派モデルでは、物価水準の変化に合わせて名目賃金が自由に変化するため、AS曲線は物価の影響を受けずに常に一定であるとされます。このことは、AS曲線が垂直な直線であることにも表れています。
よって、この選択肢は〇です。
以上から、正解は選択肢オとなります。
(設問2)は、財政・金融政策がAD曲線、AS曲線のシフトを通じて実質GDPにどのような影響を与えるかを問う問題です。
前出のAS曲線の図解をご覧ください。
AD曲線が変化しても、均衡国民所得(本問での完全雇用GDP)は一定です。
なお、AD曲線は、拡張的な金融or財政政策をしたときに右シフトし、緊縮的な金融or財政政策をしたときに左シフトします。
一方、AS曲線は、労働力以外の観点から生産性が向上したときに右シフトし、生産性が低下したときに左シフトします。
それでは選択肢をみていきましょう。
選択肢ア:誤りです。政府支出の増加(拡張的な財政政策)によりAD曲線は右シフトしますが、AS曲線は変化しません。結果として、総需要と総供給は均衡国民所得のまま変化しません。
よって、この選択肢は×です。
選択肢イ:誤りです。政府支出の増加(拡張的な財政政策)によりAD曲線は右シフトしますが、AS曲線は変化しません。AD曲線が変化しても、均衡国民所得(実質GDP)は一定です。
よって、この選択肢は×です。
選択肢ウ:誤りです。名目貨幣供給の増加(拡張的な金融政策)により、AD曲線は右シフトしますが、AS曲線は変化しません。このとき、AD曲線のシフトによりAD曲線とAS曲線の交点が上にシフトし、物価が上昇します。古典派モデルでは、物価と同率で名目賃金率を引き上げるため、結果として実質GDPには影響を与えないといえます。
よって、この選択肢は〇です。
選択肢エ:誤りです。名目貨幣供給の増加(拡張的な金融政策)により、AD曲線は右シフトしますが、AS曲線は変化しません。物価を引き上げるというのは正しい記述ですが、労働市場では名目賃金率も同率引き上がるため、実質GDPは変化しません。
よって、この選択肢は×です。
以上から、正解は選択肢ウとなります。
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