今日は、経営法務のH29 第2問について解説します。
以下の会話は、中小企業診断士であるあなたとX株式会社(以下「X社」という。)の代表取締役甲氏との間で行われたものである。甲氏は、X社の発行済株式の全てを保有している。会話の中の空欄A〜Cに入る記述の組み合わせとして、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
甲 氏:「会社分割の手続を利用して、当社の α 事業を、Y株式会社(以下「Y社」という。)に売却しようと考えているのですが、債権者異議手続の対象となる債権者の範囲を教えてください。まず、吸収分割によりα事業に係る権利義務をY社に直接承継させ、その対価としてX社がY社から現金を受け取る場合にはどうなりますか。」
あなた:「売却ということで、X社は、分割後、α 事業に対する支配権を手放すということでしょうから、分割契約において、Y社に承継させる債務に係る債権者は、もうX社に債務の履行を請求できないと定めることになりますよね。そうすると、[A]が債権者異議手続の対象になります。」
甲 氏:「では、新設分割により α 事業に係る権利義務を新たに設立したZ株式会社(以下「Z社」という。)に承継させた上で、Z社の株式をY社に譲渡する場合にはどうなりますか。」
あなた:「Z社の株式の譲渡の対価をX社が受け取りたい場合には、新設分割と同時にZ社の株式をX社が保有する物的分割になります。また、分割計画において、Z社に承継させる債務に係る債権者は、やはり、もうX社に債務の履行を請求できないと定めることになりますよね。そうすると、[B]が債権者異議手続の対象になります。
他方、Z社の株式の譲渡の対価を甲さんが個人で受け取りたい場合には、新設分割と同時にZ社の株式を甲さん個人が保有する人的分割になるでしょう。その場合には、[C]が債権者異議手続の対象になります。
事業の売却ということであれば、いろいろな専門家のアドバイスも必要になってくると思いますし、よい方を紹介しますから、一緒に相談に行ってみませんか。」
[解答群]
ア A:Y社に承継させる債務に係る債権者と分割の効力発生日前からY社の債権者であった者
B:Z社に承継させる債務に係る債権者
C:Z社に承継させる債務に係る債権者だけでなく、Z社に承継されない債務に係る債権者
イ A:Y社に承継させる債務に係る債権者と分割の効力発生日前からY社の債権者であった者
B:Z社に承継させる債務に係る債権者だけでなく、Z社に承継されない債務に係る債権者
C:Z社に承継させる債務に係る債権者
ウ A:Y社に承継されない債務に係る債権者とY社に承継させる債務に係る債権者と分割の効力発生日前からY社の債権者であった者
B:Z社に承継させる債務に係る債権者
C:Z社に承継させる債務に係る債権者だけでなく、Z社に承継されない債務に係る債権者
エ A:Y社に承継されない債務に係る債権者とY社に承継させる債務に係る債権者と分割の効力発生日前からY社の債権者であった者
B:Z社に承継させる債務に係る債権者だけでなく、Z社に承継されない債務に係る債権者
C:Z社に承継させる債務に係る債権者
解説
債権者異議手続(債権者保護手続きともいう)に関する問題です。
債権者異議手続について、まとめシートでは以下の通りまとめています。
(以下の例は、A社がR事業、B社がS事業を扱うとする)
会社分割によりある会社(B社)のある事業(R事業)が他の会社(A社)に承継された場合、承継の対象となったR事業の債権者は債権者保護⼿続の対象になります。
それでは選択肢をみていきましょう。
今回の問題では、X社が上の例のB社、売却先のY社が上の例のA社となります。
A:吸収分割により保護されるのは、上の(R)にあたる、Y社に承継させる債務に係る債権者です。更に、分割の効力発生日前からY社の債権者であった者です。こちらが債権者保護の対象となる理由は、Y社に承継された事業が債務超過などマイナスの影響があった場合に元々のY社の債権者を保護するためです。
よって、Aには「Y社に承継させる債務に係る債権者と分割の効力発生日前からY社の債権者であった者」が入ります。
B:新設分割の場合も、基本的な考え方はAと同様で、分割前の会社に権利を請求できない債権者が保護対象となります。
よって、Bには「Z社に承継させる債務に係る債権者」が入ります。
この時点で、選択肢アで確定できます。
C:このケースは少し特殊で、現行法では廃止された「人的分割」に近い会社分割の方法を応用したものです。ただし、少しマニアックな知識なのでこちらは試験対策上は一旦スルーで良いと思います。
以上から、正解は選択肢アとなります。
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