今日は企業経営理論H25第16問について解説します。
H25 企業経営理論 第16問
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
C 社の研究開発部門で働く研究員は、公式に仕事として与えられた研究開発テーマ以外にも、自らの興味や関心に基づき、非公式に新しい研究開発テーマを探索していた。もちろん、公式な仕事として与えられたわけではないので、新しい研究開発テーマを探索する場所や設備などの作業環境は良好なものではなかったし、昼休みや終業後の時間が費やされていた。
このことをインフォーマルに伝え聞いた経営者は、研究員による自発的活動をより活発なものにするために、新たな研究開発テーマの探索に必要な作業環境を改善するとともに、就業時間外に行った活動にも金銭的報酬を支払う制度を導入することにした。
ところが、新制度を導入した後には、研究員は昼休みや終業後の時間に、新しい研究開発テーマを探索することがめっきり少なくなってしまった。研究員にアンケートを取ってみると、作業環境の改善によって満足度が上がったわけでもなさそうであった。
(設問1)
作業環境が改善されたにもかかわらず、研究員の満足度が改善されなかった理由として、最も適切なものはどれか。
ア 経営者の判断によって行われた作業環境の改善内容が、研究員が望んでいたものとは異なっていたから。
イ 作業環境に対する不満足の解消と、新たな研究開発テーマの探索を通じて得られる満足は別問題だから。
ウ 作業環境の改善内容が、研究員が望んでいた希求水準を下回っていたから。
エ 作業環境の改善を通じて低次欲求を充足しても、満足にはつながらないから。
オ 作業環境を経営者が改善してくれたこと自体が、研究員に対するホーソン効果を生みだしたから。(設問2)
昼休みや終業後の時間に、研究員が自発的に新たな研究開発テーマを探索しなくなった。その理由として、最も不適切なものはどれか。
ア あくまで自らの意志で行っていたということを、金銭的報酬が与えられたことによって見失ってしまったから。
イ 新しい研究開発テーマの探索が、金銭的報酬のためであると知覚されるようになったから。
ウ 困難な仕事内容を考えれば、新しい研究開発テーマの探索の対価としてはふさわしくないと感じられたから。
エ 制度設計をした経営者が、研究員の自発的行動をコントロールするためではなく、研究員に報いるためのものであることをきちんと説明しなかったから。
解説
モチベーション理論に関するミニケース問題です。
今回の問題の場合、選択肢だけでは解答できず、問題文(与件文)と設問文をそれぞれしっかり読んで解答する必要があります。
それでは早速各設問を見ていきましょう。
【設問1】
「作業環境」、「満足度」というキーワードから、ハーズバーグの動機付け・衛生理論が想定できます。
ハーズバーグの動機付け・衛生理論を念頭に置いて与件文を読むと、場所や設備などの作業環境は衛生要因、新しい研究開発テーマの探索は動機づけ要因と考えることができます。
それを踏まえて各選択肢を見ていきます。
選択肢ア、ウについては、作業環境の改善は衛生要因なので、不満足の解消には役に立ちますが、満足度の向上には役に立ちません。
そのため、作業内容の改善が十分でなかったという理由は満足度が改善されなかった理由にはあたりません。
よってこの選択肢は×と判断できます。
選択肢イはその通りで、作業環境に対する不満足の解消という衛生要因と、新たな研究開発テーマの探索という動機付け要因は別物と考えて良いでしょう。
よってこの選択肢は〇です。
念のため残りの選択肢も見ていきましょう。
選択肢エは、ぱっと見その通りに見えます。
確かに「低次欲求を充足しても、満足にはつながらない」というのはその通りです。しかし、冒頭の「作業環境の改善を通じて低次欲求を充足」という部分には若干違和感があります。
というのも、改善前の作業環境では、低次欲求が充足されていなそうな記述は特になかったからです。
しかも、従業員は「新しい研究開発テーマを探索」していたということなので、欲求のレベルは既に自己実現のレベルに達していると考えられます。
ということは、「作業環境の改善を通じて低次欲求を充足」したという記述は誤りと判断できます。
選択肢オは、「ホーソン効果」の意味を知らないと判断が難しいかもしれません。
ただ、 与件文から「作業環境を経営者が改善してくれたこと」は特に効果を生まなかった旨が書かれているため、「何らかの効果を生み出したから」という記述は、○ではないと想定できます。
ちなみに、ホーソン効果とは、
周囲の注目を浴びる
→注目を浴びた人はよく見られたい、期待に応えたいなどと思う
→注目を浴びた人の行動が変わる
→好事象を得る
という効果です。
以上から、設問1の正解は選択肢イとなります。
【設問2】
設問2は不適切な選択肢を当てる問題です。
選択肢アとイはその通りで、内発的動機付けから、やりたくてやっていた研究が、金銭的な報酬をもらうことで、お金のためにやっている(外発的動機付け)という形になってしまい、やらされ感を感じてしまったと考えられます。
選択肢ウでは、モチベーションが落ちた理由として、報酬が十分でないという点が挙げられていますが、これまで報酬をもらわなくても自主的にやっていたことを考えると、報酬が十分でないというのは理由にならないと考えられます。
よってこの選択肢は×と判断できます。
選択肢エはその通りで、選択肢アとイと同様に、内発的動機付けから、やりたくてやっていた研究が、金銭的な報酬をもらうことで、お金のためにやっている(外発的動機付け)という形になってしまい、やらされ感を感じてしまったと考えられます。
ただし、経営者からの賞賛と共に、報酬の意味の説明があった場合、称賛というのは内発的動機付けを強めるものですので、モチベーションが下がらなかった可能性があります。
以上から、設問2の正解は選択肢ウとなります。
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